因縁のベビーカー

わたしがこれを始めたのを見て、ブログいいね! 始めてみようかな! と言っていた友だちがもう8つも記事(記事? でも日記ではないしなんと呼んだらいいかわからない)を書いていてわたしよりよっぽどしっかり書くことを続けていてえらい、1週間にひとつは書きたいね! エクスクラメーションマークとクエスチョンマークが多くて変な隙間たくさん

 

「ケナ、君はとっても美しい。本当に魅力的なゴールドスキンだね」

ある日そう言われた。私の方が白いのに? 白人でも私みたいに肌が白い人はあんまりいないってば。

足を組んで座っているとき、こういわれたこともある。

「君は足が短くてかわいいね」

ファック! それって褒めてるわけ?

___チャン・ガンミョン(吉良佳奈江訳)『韓国が嫌いで』

ひとつ前の記事で紹介した本からの引用。主人公の韓国人の女の子にオーストラリアでネイティブの恋人ができたのだけど、褒め方のピントがずれていたというシーン。

この主人公はほんとうに強いね(まず留学先で恋人ができるというのがすごい)。差別された…と悲観的になるのではなくて、突っぱねる。前向きで芯がしっかりしているので読んでいて励まされた、そうだ、アメリカにいたとき苦しいことってあった、忘れてはいけないな(忘れているあたり大して苦しくないのでは?)という気持ちに何度もさせられたのでした。

 

留学中に起きたことのなかで、印象的で今思い出してもむかむかすること。

ベビーカーを指定された場所に停めない人がたくさんいるのでそれを整理する仕事があった(いちばん精神を鍛えられた仕事)。そこ駐ベビーカー場ではありません、というところに停められたベビーカーは容赦なく動かすのだけれど、持ち主から怒られるのは想像に難くないよね。違うところに停めようとしているのを防ぐのも仕事のひとつで、今日で最後のシフト! あとは荷物をパッキングして明後日には日本に帰る飛行機のなか、という日にその出来事は起きた。

ベビーカーの整理をしていたとき、ベビーカーを押したおじさんが停めて欲しくないところに停めようとしていたので、「そこはストローラーパーキングではないからあっちに停めて」とお願いしたら、「ここには他にもたくさんベビーカーが停めてあるから停めてもいいよね?」と訊かれたので、や、停めないでと今言ったよね…と思いながら「ストローラーパーキングはあっちです」と答えたのね。「じゃあ君はここにあるベビーカー全てあっちに移すの?」と返してきて、この時点で「ベビーカー全て」を強調していたりしてああ怒っているなあと感じてはいたけど、これくらいの人はたくさんいるし停められても結局動かさなくてはいけないので「うん、動かすよ」。そうしたらおじさんはため息をついて駐ベビーカー場に向かって行ったので安心していたら、おじさん、わたしの真横を通るときに小声で「No you won't.」って言ったのね(なんでそれだけ英語なのと言われたら衝撃的すぎて永遠に頭から離れなかったからです…あと辛うじて覚えているのは、わたしはI'm gonna move it.って言ったと思う、隠しきれない敵対心、アメリカだから許されるもの…)。さすがのわたしもこれにはイラッととしたのでおじさんの目の前でその場にあったベビーカー全て正しい場所に動かしました。きっとたいした英語を喋れないアジア人だと思われたんだろうなあ、舐められてるなあと実感! もやもやしたけれど、そのときは嫌なことがあったらこれが留学の醍醐味だと思うようにしていたのでなんとかやり過ごしたのね。

そのあと、高校でとてもお世話になった英語の先生にこの話をしたら「アジア人で英語が喋れない年下の小娘だと思ってそんなことを言ったのだろうな」と言われて、そうか、年下&女という観点はわたしから抜け落ちていたものであって、そこまでたくさんの要素を一瞬のうちに頭で判断して「お前、絶対にベビーカー動かさないくせに」とわたしに嫌味を言ってきたあのおじさんの性格…と改めてもやもやした気持ちになったのでした。

 

書くことがないけれどこれはいつか文章にしておこう…と思っていたもの、結構感情的で読みにくい、読みにくいなあ、こういうエピソードはどうしたら一歩距離を置いて他人が読んでもわかりやすいものとして書けるのだろうね。

 

頭に戻って韓国文学の話。長いあいだ翻訳された文章は食わず嫌いをしていたのだけれど、韓国文学はその苦手克服を助けてくれた存在です。『韓国が嫌いで』は翻訳されたことを忘れてしまうくらい読みやすくてびっくりした。

後味よく終わらせたいので今まで読んだ数冊の韓国の小説のなかでわたしがいちばん気に入っているものを引用しておわり!

こんなときは、北極の氷山でも溶ければいいのにと思う。

(中略)

溶ける溶ける溶ける、ああ、眠い。突っ伏したまま、僕は死んだふりをするネズミのように目を閉じる。僕はネズミです。死んでしまいました。

___パク・ミンギュ(斎藤真理子訳)『カステラ』

テンポがいい! 「溶ける溶ける溶ける、ああ、眠い」。わたしもいやなことがあったらこれしたいなあ