桃その2
夏に読みたかった桃についてのことば
桃果の腐敗しやすさのことを考えると胸が一杯になって、にがい胃液がこみあげて来て、気持が悪くなってしまう。指に触れられただけで、指の腹の圧力で押れた微かなへこみから、まるでその指に付着していた菌におかされたように、そこから腐敗していく果実が、ほかにあるだろうか。桃にとって指は邪悪だ。一度、触れられた桃は、その指によって食べられなければならない。それはみずみずしさを、薄い皮と透明なうぶ毛で覆われた果実の運命なのだ。それゆえ、桃ほど肉感的な果実は存在しない。
___金井美恵子『小説を読む、ことばを書く』
僕はスヴェアの頬をやさしく噛み、そこから甘い汁がはとばしるのではないかと思った。まるで桃のように。
追記
白桃にひとつひそめる種子となり眠りたしねむりて夏を越えたし / 栗木京子