2021.5.4
就活の準備の一環であらかじめ決められた文章を用意して本番で課された単語を無理やりねじ込む三題囃子と呼ばれるもののために、よくあるやり方ながらも一応オチをつけて、書いてみたのですが、結局出番がなかったのでここで供養です。改行のたびに隙間があいてしまうので余計にチープ
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「お散歩に行かない? 日が出ていてぽかぽかだし、風も強くないみたいだし」
そう言ったはるくんの声で、わたしは目が覚める。目が合うと、優しい声でおはよと言ってくれる。確かに今日は昨日よりぐんと暖かくなったみたいだ。冬のあいだ、寒くて手放せなかったふわふわのブランケットなしでも眠れていたことからも、春になったのだとわかる。わたしはおもいっきり伸びをすると、準備万端だよ、とはるくんに声をかける。
わたしがこの街に来てからようやく1か月が経とうとしている。まだまだ分からないことだらけで、はるくんは、今日みたいにわたしをお散歩に連れ出して、街のことを教えてくれる。
「はるくん」
「ん? あ! 咲良さん」
すれ違う女の人が声をかけてくる。わたしの知らない人。はるくんのことに話しかけてから、ワンテンポ置いて、わたしの存在に気がつく。じっと見つめられて、背中にぶるっと寒気が走る。まるで、どうしてあなたがはるくんと散歩に? とでもいいたそうな目。
「お散歩?」
「そう」
「珍しいね。お散歩なんてするんだ」
返事の代わりに、はにかむはるくん。わたしは微妙な空気に耐えられなくなり、
「ねえ」
と言い、自分の顔をはるくんに擦り付ける。はるくんは、困ったような顔でわたしの頭を撫でる。
「そろそろ行くね」
はるくんが女に告げる。
「わかった。またね。今度お散歩するときはわたしも呼んでよ」
なんで図々しい女! 彼女みたいなのとは絶対に友だちになれない。わたしとは根本的に違う生き物!
「咲良さんに会うとは思わなかったなあ、ぼく、緊張しちゃった」
あのあと少し歩いてから家に帰った。わたしの頭を撫でながら、はるくんが言う。とても嬉しそうな声。
「きっと、ナツがいたから咲良さんは話しかけてきてくれたんだねえ。ありがとう、ナツ」
わたしはどんな顔をしたらいいのかわからず、はるくんの顔を舐める。
「だって珍しいよねえ、猫が散歩なんて。ナツ、今度は3人でお散歩に行こうね」
はるくんが顔を綻ばせて言う。ほんとうはふたりがいいのだけど、浮かれているはるくんのかわいさに免じて3人でもいいことにしてあげる。わたしは返事に、にゃあと一声鳴く。